2015都市住宅学会賞・業績賞
このたび2015年都市住宅学会賞業績賞につき、6業績を選考し、第23回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
今回受賞した各業績は講評に示されるように 、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。
◆池尻団地建替事業
旭化成不動産レジデンス㈱開発営業本部
弁護士 村辻義信
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1963年に首都圏不燃建築公社が分譲した団地の建替えプロジェクトである。この団地は区分所有建物3棟と普通建物1棟からなり、区分所有部分は住宅と店舗・事務所に分かれていた。店舗・事務所は、敷地の一部についての借地権を立地根拠にしていたが、全体の敷地は一筆で、借地権は未登記であった。老朽化した団地の建替えは必須であったが、すべての地権者の同意を得ることは困難であった上に、借地権の法的な取り扱いが困難であった。そこで、こうした困難を乗り越え、マンション建替え法の多数決制度を利用するため、本事業では、マンション建替組合を設立し、同組合が借地権とそれに基づく建物を買収した後、借地人として底地権者(共有者)に借地権の解消を申し入れている。また底地権者(共有者)は、マンション建替組合とは独立に、共有者の管理行為として過半数の同意で借地権の解消を受け入れ、権利関係を整理している。 老朽化した団地の建替えは重要な社会的課題であるが、複雑な権利関係がある場合には、建替えのための法的要件を充たすことが困難である。本事業は、マンション建替組合と共有者の管理行為としての借地権の解消を組み合わせて、複雑な権利関係を処理した点で大きな法的独創性を持つものであり、また、類似の事例における法的処理のモデルともなるものである。
◆東日本大震災における総合的な住宅情報提供による被災者の住生活再建支援
福島県居住支援協議会
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原発事故の影響で、長期にわたる避難生活を余儀なくされる住民が大量に生み出された福島県で展開されている総合的な住情報提供事業である。住宅相談業務や住宅フェア事業等を介して、被災者と事業者の双方のニーズや課題を的確に把握し、それらを支援スキームに反映させる意欲的な取り組みが行われている。なかでも、住まい手と家主の双方に有益なサービスをパッケージとして提供するNPO組織の立ち上げを促す等、市場で適切な住まいを確保しづらい要配慮高齢被災者等に対する新しい居住支援の仕組みを整えたことは高く評価される。他所にも参考になるこうした取り組みがひろく知られ、要配慮高齢者をはじめとする被災者の住生活の再建が進むことを期待したい。
◆京都市粟田学区における地域住民と連携した空き家流通促進事業
赤﨑盛久(粟田自治連合会・空き家対策実行委員会委員長)
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地域が主体となって、専門家・行政と連携し、市場に出ない空き家の事情を調査・分析したうえで、地域のまちづくりに資する空き家活用に有効なスキーム「粟田方式」を構築し実績を生み出すとともに、他地域の支援にも発展させている。
具体的には、次の特長が着目に値する。
1)空き家調査から活用者選定・専門家紹介まで一連の流れが明確である
2)活用者・方法の選定が事業コンペ形式で行われ、知恵が集まりやすい
3)建物所有者に経済的負担を求めない、実現可能性が高いビジネスモデルである
4)空き家の利用者募集にあたり、京都という土地柄、その利用者や利用形態が同コミュニティを攪乱する要因になることを極力排除するために、町内会長との面談を課している
5)ゲストハウスの運営など、空き家活用を支える新たなビジネスモデルも育っている
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆平成の京町家 東山八坂通
株式会社ゼロ・コーポレーション
京都大学大学院工学研究科建築学専攻 髙田研究室
森重幸子(HA+Gデザインオフィス一級建築士事務所)
比地黒義男(株式会社京都庭園研究所)
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本事業は、通常の開発行為が難しい密集した歴史的市街地において実現された戸建て形式の「平成の京町家」集合住宅団地である。一団地認定等を活用した開発手法、伝統的京町家に倣った庭やケラバの重なりを取り入れた設計手法、管理規約や入居後の長期のアフターメインテナンス等のマネジメントの仕組みによって、伝統的な町家を現代生活に合ったスタイルで提供し、周辺住宅地のスケールに馴染む良好な住環境とまちなみを生み出しており、また、長期的な住環境保全に実効力を与えている。併せて、隣地の袋路からの避難路確保し近隣の防災性を高めている。今後、京都のまちなかを中心に、同様の環境においても展開しうる事業手法であり、都市住宅分野及び社会への寄与が大きい。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆なごみりあ槇島(府営住宅槇島大川原団地)における地域に開かれた多世代交流の促進
京都府建設交通部住宅課
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「なごみりあ槇島」は、京都府南部地域における府営住宅の集約建替えの一環で新規に建設された団地で、地域に開かれたまちづくりを目指し、府営住宅、社会福祉施設、交流スペースが一体的に整備された。見守りテラス、中庭、隣接地への保育所の誘致など子育て支援が強く意識されており、子育て専用住宅では定期借家方式が採用され、入居期限を設定するなど、世帯構成上もバランスのとれたコミュニティ形成の仕掛けがある。また、周辺景観に配慮した建物の外観デザイン、災害時の避難場所の提供など、地域との一体化が重視されている。福祉事業者、保育所、地元のまちづくり団体および団地自治会による「まちづくり運営協議会」の結成が予定されており、団地を核として地域住民参加型のまちづくりが進められようとしている。人口減少、少子高齢化の一層の進行が予想される地域社会にあって、本事業は、環境のハードとソフトの両面で、人にやさしく長く住み継がれる、また地域活性化の拠点となる多様な仕組みを取り入れた公営住宅の先進モデルといえる。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆八幡高見地区住宅市街地総合整備事業
北九州市
新日鉄興和不動産株式会社
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本事業は、北九州市の住宅政策上の優れた取り組みであるとともに、企業所有地の有効活用、企業イメージを意識した高品質の計画、時間をかけた丁寧な事業進行等、近代に開発された社宅跡地の先導的な再整備プロジェクトと評価できる。 住宅市街地総合整備事業、街路整備、河川整備、公園整備、商店街再生を一体的に進めるとともに、環境モデル都市の理念に基づいたまちづくりをすすめ、八幡高見地区の人口呼び戻しと活性化に寄与している。また内井昭蔵氏をマスターアーキテクトとして総合的な環境デザインにも取り組み、氏の没後もブロックアーキテクトがこの理念を継承している。さらに建築協定、緑地協定、地区計画を定め、戸建て住宅地区では住民によるせせらぎや植栽の自主管理もなされる等、住宅地マネジメントについても評価すべき点が多い。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
2015年都市住宅学会業績賞審査員
池添 昌幸 福岡大学工学部建築学科准教授
大坪 明 武庫川女子大学生活環境学部 生活環境学科教授
狩野 徹 岩手県立大学社会福祉学部教授
川崎 興太 福島大学共生システム理工学類准教授
小泉 秀樹 東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻教授
島田 明夫 東北大学大学院法学研究科教授
所 道彦 大阪市立大学大学院生活科学部人間福祉学科准教授
長谷川 洋 国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部住宅性能研究官
弘本 由香里 大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所特任研究員
三島 伸雄 佐賀大学大学院工学研究科教授
室﨑 千重 奈良女子大学生活環境学部住環境学科講師
米野 史健 国土交通省国土技術政策総合研究所住宅研究部住宅計画研究室主任研究官
山鹿 久木 関西学院大学経済学部教授
山口 健太郎 近畿大学建築学部建築学科准教授
吉田 修平 吉田修平法律事務所弁護士
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