2010年都市住宅学会賞・業績賞

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2010年都市住宅学会業績賞授賞プロジェクト及び講評
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ルネッサンス計画1〜住棟単位での改修技術の開発〜

独立行政法人 都市再生機構
株式会社 竹中工務店
独立行政法人 都市再生機構 西日本支社
戸田建設株式会社大阪支店
若築建設株式会社大阪支店
京都工芸繊維大学大学院教授 鈴木克彦
株式会社 星田逸郎空間都市研究所代表 星田逸郎

米谷良章設計工房代表 米谷良章
ネオフォルム構造技研代表 新保勝浩
プロジェクト概要:PDF

「ルネッサンス計画1」は、階段室型共同住宅の住棟改修技術の開発・実用化に向けて実物による実証実験に取り組んだものである。階段室型住棟へのエレベーターや共用廊下の新設、垂直方向も含めた住戸規模の拡大、大規模な減築など、従来の性能を一新する住棟改修技術の検証のほか、内外空間の中間領域の創出・演出による街並みへのアプローチ、環境負荷の低減や高齢者の自立支援などの社会的要請への対応へも挑戦している。全体として階段室型住棟の優れた空間構成を再認識させるものであり、計画上の示唆に富む。また、広く一般に公開され、様々な分野の見学者に対して、その可能性や有効性の観点から大いに刺激を与えている。この成果は、昭和3040年代に大量に供給された既存住宅ストックの有効活用に向けた大きな一歩であり、今後の都市住宅分野における研究や技術開発の発展に寄与する先導的な取組である。

金沢市における町家の継承・活用を進めるための活動

NPO法人金澤町家研究会理事長 川上光彦

プロジェクト概要:PDF

金沢市内に点在する町家約7,000軒のうち年間約300軒が取り壊され、伝統的な生活感が町中から失われつつある。この町屋の再生・継承・活用を意図して金澤町家研究会が組織され、町家を対象として積極的に調査・研究と広報活動が行われている。活動として2008年度には、市内の町家の悉皆調査(約7,000軒)を行うとともに、2009年度には空町家の所有者の意向調査と4,000軒の居住町家の居住者の住まい方に関する実態調査を行い、町家所有者が維持・活用に苦慮していることを明らかにしている。さらに、町家の体験宿泊や100軒に及ぶ町家を公開する町家巡遊を実施し市民の意識啓発を図っている。単なる理念的なアッピールとは異なり、都心居住に向けての具体策に着手しており、独創性や今後の発展性、社会的貢献のいずれも優れ、都市住宅学として評価すべき点は大きいので、業績賞にふさわしいものと判断される


鹿島市肥前浜宿の次世代を担う子供たちの歴史的環境保存意識を育む一連の活動

NPO法人肥前浜宿水とまちなみの会理事 三島伸雄

プロジェクト概要:PDF

肥前浜宿は、居蔵造りの醸造町、茅葺町家の在郷町として、2007年に重要伝統的建造物群保存地区指定を受けた。「肥前浜宿水とまちなみの会」メンバーは、任意団体時代を含めた約20年に亘るまちづくり活動を通じて、行政による重伝建の指定並びにその保存事業及び街並み環境整備事業の推進、さらには地元住民と行政との連携支援などに、多大な実績を残してきた。くわえてNPO法人としての発足後は、建築・都市分野の大学研究室との学術的交流を支援するほか、次世代を担う子供たちの歴史的街なみ保存意識を育むことを目標として、「肥前浜宿スケッチ大会」(2002年より毎年開催)、その作品を展示する「街角美術館」、旧乗田家保存修理工事の「体験学校」、「子供街並みガイド」など、地元の子供たち参画による諸活動を実践してきた。こうした取組は全国的にも類例の少ない事業で、今後の街並み保全に新たな視点を追加する実践と評価できるため、都市住宅学会賞業績賞に推薦する。


アイランドシティ照葉のまちプロジェクト

アイランドシティ住宅開発企業連合体代表 積水ハウス株式会社福岡マンション事業部

プロジェクト概要:PDF

本事業は、公共による博多湾の埋立造成地である対象地に、公共の土地利用計画と民間の住宅地開発とを計画段階から一体化した、公募プロポーザルを経た官民協調型事業であり、当住宅地開発のコンセプトである「自然、健康、子ども」を目指したまちづくり事業である。全体の構想計画に基づいて、森をつくり、豊かで安心できる住宅地を皆で関わりながらつくるという強い意志に支えられた事業と云え、多数の住民の主体的活動を通して、サスティナブルな住宅地環境をつくる為の努力がみられ、更に、住宅地としての成熟のあり方にも配慮して、時間をかけて順次成熟していくまちづくりを行っている。また、まちづくり関連の各種の技術・政策を繋ぎ・総合化して具体的空間として実現しており、ユニバーサルデザインなどハード面も充分に考慮している。この様なまちの建設が実行され、福岡市全域より需要があり、当該市域の住宅供給に対する貢献性は高い。以上より、本事業は業績賞に相応しいものといえる。


富士マンション建替事業

富士マンション管理組合法人
株式会社アール・アイ・エー
プロジェクト概要:PDF

既存不適格マンションの建替えは、現行制度下では、ほぼ不可能といわれてきた。本業績は、その建替え成功例であり、震災復興等を除けば日本初の事例とみられる。そこで示された関係者の目標設定とそれに向けた努力、そして事業遂行上の数々の工夫は、今後の同種のマンション建替えに参考になる点が多い。本業績の特徴は、第一に、隣地の取得を行いつつも容積減から減戸数建替え(72戸から51戸へ)を実現したこと、第二に、住民主体の自主建替えであること、第三に、費用負担ありの条件下で全員一致の合意形成を成し遂げたことである。この成功には、各区分所有者の努力はもちろん、専門家や自治体の支援、金融機関の協力などがあった。さらに、地域社会の一員として建替えを進める姿勢が貫かれた点も重要である。以上を通して、本業績は、市街地での減容積建替えの先駆例として特筆すべき意義を有しており、業績賞にふさわしい。


大阪市マンション管理支援機構の運営

大阪市マンション管理支援機構代表幹事 大阪市都市整備局長 平岡 博
プロジェクト概要:PDF

分譲マンションの適正な維持管理を支援する目的で、大阪市および建築士、弁護士などの専門家が全国に先がけて設立した組織である。マンション管理に関する問題への対応方法の指導やセミナー開催、機関紙発行、マンション管理に関するノウハウの周知など、独自の積極的な活動を10年にわたり展開しており、大阪市内の1000を超える管理組合が加入している。
マンションの管理組合役員は、専門知識を持たない住民であることが多く、問題が発生すると解決に至るまでに多くの困難を抱え込んでしまう。個々のマンションごとに異なる諸課題に、客観性と効率性をもって対応できる点は高く評価できる。また周辺地域のマンション管理問題に対しても指導的役割を果たしている。

大阪長屋の再生―豊崎長屋における社会実験―

谷 直樹
竹原義二
藤田 忍

小池志保子
桝田洋子
綱本 琴
プロジェクト概要:PDF

本事業では、大阪の伝統的都市住宅の形式をもつ大正時代の長屋に対して、木構造を活かした新しい耐震補強と現代的な長屋ライフを実現する住戸改修を施し、「居住」の場として再生させる事業である。意匠設計者・研究者・構造設計者・大工の協働で改修計画が練られたことや、コミュニティの維持を前提として住まい方や生活環境がデザインされたことによって、木造長屋ストックの有する特徴を最大限に活用した独創的な再生事業となっている。またこの現場は大阪市立大学の実践教育の場「現場プラザ」として組織化され、設計行為に留まらない木造ストック再生に関わる一連のプログラムを学生が経験できるものとなっており、人材育成の観点からも大いに評価できる。若者など新たな住民が流入するなどソーシャルミックスや活性化に貢献しており、他の長屋オーナーへの啓蒙活動の一助となっていることを考えると、長屋再生のパイロットプロジェクトとして、都市住宅学会の業績賞にふさわしい事業と評価される



2010年都市住宅学会業績賞審査員

池添 昌幸      福岡大学工学部准教授
碓田 智子      大阪教育大学教育学部教授
内田 文雄      山口大学大学院理工学研究科教授
遠藤 剛生      神戸芸術工科大学教授
岡 絵理子      関西大学環境都市工学部准教授
梶原 文男      政策研究大学院大学教授
唐渡 広志      富山大学経済学部准教授
櫻井 典子      (独)日本学術振興会特別研究員
志村 秀明      芝浦工業大学工学部准教授
竹田 智志      明海大学不動産学部非常勤講師
田端 和彦      兵庫大学生涯福祉学部教授
刀根 令子      東京大学大学院工学系研究科特認助教
中岡 深雪      北九州市立大学准教授
丸谷 浩明      (財)建設経済研究所研究理事
三浦 研        大阪市立大学大学院生活科学研究科准教授
三輪 康一      神戸大学大学院工学研究科准教授
森反 章夫      東京経済大学現代法学部教授
安枝 秀俊      京都大学大学院工学研究科助教
山鹿 久木      関西学院大学経済学部教授
渡邊 貴史      長崎大学環境科学部准教授


                                  (敬称略)
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