2009年都市住宅学会賞・業績賞

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2009年都市住宅学会業績賞授賞プロジェクト及び講評
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◆浜甲子園さくら街(建替1期)

独立行政法人都市再生機構西日本支社・江川直樹(マスターアーキテクト)
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対象地は、都市部の住宅不足解消に貢献した、1962年入居開始の日本住宅公団(現在のUR都市再生機構)の関西有数の大集合住宅団地である。1995年度からの建替再生の検討により、広大な敷地全てを建替対象とするグランドデザインに基づき計画された、全4期中、2005年入居開始の1期が対象である。グランドデザインの基に、環境調査シートにより事業を進め、閉鎖化しがちな団地再生に対して、道路骨格、公園、近傍の河川堤防へのアクセス性の検討等々から、団地を周辺地域に溶け込ませ、「街の中の存在」に大きく向け直し、建築家、土木・施工業者、居住者等の参加と協働を、URがマスターアーキテクトと共に仕掛け、樹木等をできる限り残す、大きすぎないスケール化、多様な居住者層の確保等により、ヒューマンな佇まいの形成を図った公的取組である。これらは、建替事業の新たな方法として高く評価され、本学会の業績賞に相応しいものといえる。

◆クオレハウスプロジェクト(山形県鶴岡市の中心市街地「鶴岡銀座」における、地域に開かれた高齢者向け共同住宅「クオレハウス」の整備)

合同会社クオレ代表社員 三井圭子・早稲田大学都市・地域研究所客員研究員 鈴木 進・早稲田大学都市・地域研究所客員研究員 柳沢 伸也
プロジェクト概要:PDF

本プロジェクトは高齢者用住宅(居住施設)の需要がそれほどは見込めない地方の10万都市において、市の歴史的財産としての蔵屋敷を保存・活用しながら、衰退が進む「まちなか」の活性化を図りつつ、高齢者用賃貸住宅の供給事業を実施したものである。良好とは言えない事業環境のなかで公的な補助制度に依存せずに、コーポラティブ方式を採用して入居者を事前に募集することで事業リスクの軽減を図り、人的なネットワークや信頼関係など豊かな地域資源を活用しながら、ファイナンスや高齢者が自立できなくなった場合の対応などの問題に対処している。地方都市におけるモデル的な事業を、「ソフト」な手法を中心とした事業システムによって実現したものとして高く評価される。

◆「ほたるまち」プロジェクト

独立行政法人都市再生機構西日本支社・株式会社ビープラネッツ
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本事業は、自治体が主導しつつ民間の資金と手法の導入に成功した興味深い事業である。一般公募型プロポーザル方式で事業者を決定し、一部事業者へ市有地売却を行って、本来ならば市主導、監理を行うべき各施設の建設を民間の力で促進した点は大いに評価できる。「多世代共生型のまちづくりの実現」という目標に沿った整備が具現化され、有効な複合開発となっている点でも非凡な事業といえる。公共施設配置の見直しを進める中で、近年注目されるPublic Real Estate戦略の先行事例ともなり、今後の都市居住に関して期待を抱かせるものであり業績賞受賞に値する。

◆WEBサイト「マンション評価ナビ」による中古・新築マンション評価情報の提供事業

株式会社 風 代表取締役 大久保 恭子
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「WEBサイト「マンション評価ナビ」による中古・新築マンション評価情報の提供事業」は中立的なマンション評価情報をウェブ上で提供する無料のサービスである。住宅の供給者と需要者の間には大きな情報の非対称がある。それを是正するための中立的な情報の提供の必要性は従来から指摘されていた。マンション評価ナビはこの課題に応えようとする最初の体系的な試みである点で大きな価値がある。また「WEBサイト「マンション評価ナビ」による中古・新築マンション評価情報の提供事業」のウェブサイトにはマンション評価の要素が開示されているので、需要者およびマンション供給業者への教育的効果がある。これはいずれはマンションの品質向上に寄与することになろう。このような試みが、住宅事業に造詣が深いとはいえ、1女性経営者によって企てられたことを考えると、この事業は都市住宅学会の業績賞を授与するにふさわしいものである。

◆健康住宅アドバイザー資格制度の創設ならびにその運用

NPO法人日本健康住宅協会名誉理事 石本徳三郎
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「健康住宅アドバイザー資格制度」は、日本でシックハウス症候群が社会問題化する以前の1993年に、健康住宅普及のための専門技術者養成を目的として創設された。その先見性と、これまでに延べ約8,000名に達するアドバイザーを養成してきた実績は、高く評価される。その健康住宅の概念には、人と自然との共生も視野に入れ、ハード(建築・設備)とソフト(住まい方・メンテナンス)の両面を含まれるなど点も独創的である。<BR>
 専門技術者の養成を通して住宅自体の質の向上、関連業界全体の技術水準と信頼性の向上に加えて、消費者の教育・啓発、都市住宅に関する研究成果の蓄積にも寄与した社会的貢献は大きく、業績賞に相応しいものと評価される。

◆芦花公園駅南口地区のまちづくり

独立行政法人都市再生機構
プロジェクト概要:PDF

「芦花公園駅南口地区のまちづくり」は、主要駅ではない比較的ポテンシャルの低い駅前の再開発と老朽化した住宅団地の再生を一体的に実施し、単独では事業化が困難であった問題を解決し実現しており、今後の住宅市街地環境の改善手法に対する示唆に富むものである。<BR>
再開発と住宅団地再生を一体的に実施することにより、当該地区の身の丈に応じた段階的整備を可能とし、長年の懸案であった駅前広場の確保と主要生活道路の拡幅・歩道整備を併せて実現し、防災性・安全性を向上させることに成功している。また、都市計画上の規制がネックとなって更新が進まない老朽住宅団地において、地区計画の活用によって更なる良好な市街地環境の改善を担保することによって都市計画を変更し事業化を実現している。これらは、同様の問題を抱える住宅市街地の改善に向けて波及が期待できる先駆的な取り組みである。

2009年都市住宅学会業績賞審査員

相羽 康郎      東北芸術工科大学デザイン工学部環境デザイン学科教授
浅田 義久      日本大学経済学部教授
石坂 公一      東北大学大学院工学研究科教授
碓田 智子      大阪教育大学教育学部教養学科准教授
加茂 みどり     大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所
岸本 達也      慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科准教授
桑田 仁       芝浦工業大学システム工学部環境システム学科准教授
瀬渡 章子      奈良女子大学生活環境学部住環境学科教授
田端 和彦      兵庫大学生涯福祉学部社会福祉学科教授
三好 庸隆      武庫川女子大学生活環境学部生活環境学科教授
山鹿 久木      関西学院大学経済学部准教授
山崎 さゆり     田園調布学園大学人間福祉学部人間福祉学科准教授

(敬称略・五十音順)