2014都市住宅学会賞・業績賞
このたび2014年都市住宅学会賞業績賞につき、5業績を選考し、第22回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
今回受賞した各業績は講評に示されるように 、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。
◆賃貸住宅における代位弁済情報(家賃支払い情報)データベースの運営
一般社団法人 全国賃貸保証業協会
公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会
宗 健(株式会社リクルート住まいカンパニー 住まい研究所 所長)
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本事業は、日本で最初の賃貸住宅の代位弁済情報(家賃支払い情報)のデータベースを構築し、運営するものであり、家賃の支払い履歴のデータだけを蓄積することによって、従来、偏見や差別などによって部屋を借りにくかった属性の利用者に対しても、過去の継続的な家賃支払いを確認できることで、信用補完を通じて賃借が可能になる環境を整備したと評価された。借り手についての情報の非対称性の下で、従来は不確かな属性のみによって市場から排除されていた状況を改善できる重要な市場インフラとして期待される。本データベースの利用については、あくまで希望者のみを前提としており、個人情報の保護や適切な運営体制の確立等にも十分に留意した運営がなされている。
◆京島三丁目地区の防災まちづくり(京島三丁目地区防災街区整備事業)
独立行政法人都市再生機構
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防災まちづくりを進めることはわが国の都市住宅にとって喫緊の課題である。その更新手法はいくつかあるが、本事業は東京都の「木密地域不燃化10年プロジェクト」に指定されている曳舟駅周辺・京島地区内にあって、木密地域の中央部に位置する京島三丁目地区において、平成15年に改正された「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(「密集法」)」にもとづく「防災街区事業」を適用した先駆的事例である。防災街区事業では権利者のさまざまな意向を従後の権利に変換するために関係者との協議、調整に非常に時間と手間がかかるため困難な事業といえる。
そのようななか、本事業を実施し、戸建て住宅を希望する権利者への定期借地権の設定による資金負担軽減方策の適用、従前の借地権者の近隣のコミュニティ住宅への転出斡旋、共同住宅保留床の民間市場導入(27戸)など都市再生機構が積極的に牽引した独創的かつ、複合的な手法であり、不燃化・防災まちづくりの促進に寄与する事業手法のひとつとして高く評価できる。
◆紀伊半島大水害に伴う集落景観に配慮した十津川村の災害復興公営住宅
十津川村役場
(株)アルセッド建築研究所
(株)環境設計研究所
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2011年9月の紀伊半島大水害に見舞われた奈良県十津川村では、約2年半にわたる仮設住宅での村民の避難生活に終止符を打つため、県、村、設計事務所、コンサルタントによる綿密な協働連携のもと、地場産木材を使った木造災害復興公営住宅が建設された。
一般的に災害復興公営住宅は、スピードやコストの制約から、地形や景観への配慮は疎かになりがちである。本事業は、コンペによる設計者の選定、地域の伝統的な住宅形式および住まい方の調査、村の大工や住民参加によるワークショップを重ねるなど、丁寧な計画・設計プロセスを経て、人口減少や高齢化を見据えて集落再生を図る敷地選定、自然地形に沿う既存の美しい集落景観に馴染む住宅配置、伝統的な生活様式を尊重した住宅、地場産木材の活用と地元大工・技術者の参加による地域循環型の住宅建設、等を実現している点で高く評価される。また、今後建設が本格化する東日本大震災の災害復興公営住宅だけでなく過疎地域の公的住宅のモデルとしても大いに期待される。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆千里ニュータウンの価値と魅力を共有するための活動
~「千里グッズの会」による地域情報共有メディアの制作等による住まわれた歴史の継承
千里グッズの会
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大阪市内への近接性による地理的な好条件もあり、マンション建設ラッシュが続く千里ニュータウンの変貌は著しい。近過去として見過ごされてきたニュータウンの歴史や価値を、「絵はがき」の作成、「大きな本」の展示、まち歩き等の活動を通して、再発見する試みであり、内容が単なる外形的な景観にとどまらず、人々の生活に影響を与える都市や団地の計画理論を含む、ユニークな住民の教育・啓発活動といえる。活動の成果をまとめた「ウェルカムパック」がニュータウンへの転入者に配布されるなど、行政施策にも活かされている。また、まちあるきイベント、ワークショップの開催、ニュータウン関連のイベントや展示会などは、新住民と旧住民をつなぎ、コミュニティ意識の醸成に貢献している。行政に頼らず、住民によって街の記録・記憶を残していく試みは、住民主体によるまちづくりの取り組みの新しい形であり、10年以上にわたる継続的な活動として評価された。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆リノベーションスクールによる空間資源を活用した人材育成と地域再生事業
徳田 光弘(リノベーションスクール代表・
一般社団法人リノベーションまちづくりセンター代表理事・九州工業大学准教授)
梯 輝元(北九州リノベーションまちづくり推進協議会会長)
清水 義次(株式会社アフタヌーンソサエティ代表取締役)
嶋田 洋平(株式会社北九州家守舎代表取締役)
松永 安光(一般社団法人HEAD研究会代表理事)
大島 芳彦(一般社団法人HEAD研究会リノベーションTF委員長)
[プロジェクト概要:PDF]
北九州リノベーションスクールとは、受講生が実在する遊休物件を対象に再生事業計画を立案し、オーナーに向けて公開プレゼンを行う教育プログラムで、4日間に亘るスクールが2011年8月からこれまでに8回開催され、300名以上が受講した。スクール後、対象物件の事業実現を図る点が特徴で、実現した再生事業は10件超える。これらは、デザイナー・クリエーター等起業家向けシェアオフィス・店舗や、民家を再生したイベントスペースなど、リーディングプロジェクトとして評価されており、一連の事業によって約250名の新規雇用が創出された。熱海、田辺、鳥取、和歌山など、同様のスクールが全国他都市でも開催されるに至るなど、社会的影響も大きい。
「空き家」「空き店舗」問題という都市住宅学の重要課題に対する具体的処方箋を提示した点で、またリノベーションスクールをエンジンとした新しい地域再生手法を創出した点で、都市住宅学への貢献は多大なものがある。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
2014年都市住宅学会業績賞審査員
池添 昌幸 福岡大学工学部建築学科准教授
川崎 興太 福島大学共生システム理工学類准教授
窪田 亜矢 東京大学都市工学科都市デザイン研究室准教授
瀬田 史彦 東京大学大学院都市工学専攻准教授
田端 和彦 兵庫大学生涯福祉学部社会福祉学科教授
所 道彦 大阪市立大学大学院生活科学部人間福祉学科准教授
野上 雅浩 住宅金融支援機構まちづくり推進部まちづくり企画グループ主任調査役
牧 紀男 京都大学防災研究所准教授
三島 伸雄 佐賀大学理工学部准教授
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