2012都市住宅学会賞・業績賞
2011年の業績賞選考より、従来から表彰対象としてきた事業だけでなく、「社団法人都市住宅学会設立20周年記念事業」として、20年という長期の学会活動とも平仄をあわせるような、長期に亘る複数事業の集合体に関しても、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、選考・表彰することとなりました。
このたび2012年都市住宅学会賞業績賞につき、学会設立20周年表彰として2業績を、従来からの表彰として3業績を選考し、第20回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
今回受賞した各業績は講評に示されるように 、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。
2012年都市住宅学会賞業績賞(社団法人都市住宅学会設立20周年記念表彰)
◆住宅産業フォーラム21~住宅産業に係る産・学・官連携のプラットフォームによる情報交流および人材育成~
住宅産業フォーラム21 (座長 巽和夫)
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1996年の創立以来、産学官交流の住宅産業プラットフォームとして、本組織が果たしてきた役割は極めて大きい。会員向フォーラム、一般向けシンポジウム、見学会、若手研究会等を組み合わせ、長期にわたって継続実施してきたことが、住宅産業界の質的向上と住宅政策課題の社会への周知・共有につながったと評価できる。また大手住宅産業にとどまらずに、地域住宅産業を支える中小企業の役割に注目した点は特筆に値する。たとえばプレハブ住宅産業と在来木造住宅産業との融合による新たな事業手法を、産学共同研究の成果をふまえて提案するなど、注目すべき具体的提案も多い。今後は、活動内容を絶えず検証して新たな研究交流事業を発足させるとともに、不動産業界や、建築学以外の研究分野からの参画を求めることも含めて、活動のさらなる展開を期待する。
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◆日本におけるコレクティブハウジングの普及推進に寄与する実践と包括的研究
小谷部 育子(日本女子大学名誉教授)
コレクティブハウスかんかん森居住者組合「森の風」
一般財団法人住総研コレクティブハウジング研究委員会
[プロジェクト概要:PDF]
北欧で発展したコレクティブハウジングの日本での実践への期待は大きい。しかし、コモンミール等を重視した新しい住まい方は未知であり、それを定着・普及させることは並大抵のことではない。本業績は、普及啓発の中心を担った小谷部育子氏、最初の本格的実践である「かんかん森」の居住者組合、それらを研究面で支えた住総研委員会の3者による長年の努力の結晶である。とりわけ、2003年に完成した「かんかん森」の10年近くにわたる試行錯誤は、包括的実践研究と呼ぶにふさわしい。居住者有志組織による一括借上げの実施など、有志が経営リスクまで負って実践してきた努力には感銘さえ受ける。また、その成果を単行本として公開したことも意義深い。今後の普及推進に向けて大いに参考になる優れた業績である。
◆住棟リノベーションによる団地再生の取組み
独立行政法人都市再生機構東日本賃貸住宅本部
独立行政法人都市再生機構西日本支社
株式会社オープン・エー
株式会社星田逸郎空間都市研究所
株式会社DGコミュニケーションズ大阪支社
[プロジェクト概要:PDF]
本事業は、2つのUR団地で実施された住棟リノベーションによる団地再生の試みである。東京の多摩平団地では、3つの民間事業者に住棟を分けてスケルトンを賃貸し、事業者自らが改修工事と運営管理を行っている。異なる業態の複数の事業者がその得意分野を活かし、家族構成などが偏らない団地再生を実現しようとした点が評価される。他方、京都の観月橋団地では、2事業者にエリアを設定し、既存の居住者をそのままにしながら空き住戸を個別改修する居付き住棟リニューアルに挑戦している。ローコスト、かつ、躯体への影響を最小限に留める改修技術の開発、既存のRCの質感をいかした内装や眺望、通風・採光を重視したきめ細かな設計等は、今後のリニューアル技術の発展に寄与するものである。また単なる技術的実験ではなく、実際の賃貸住宅市場の動向に対応した試みである点も興味深い。短期間に多くの先駆的リノベーションを実現しえたのは、URが民間事業者の知恵や経験をあますことなく発揮させたからであり、そのような住宅ストック再生の仕組みを実現した点も高く評価される。
今後の日本の都市住宅ストックの再生の方向性を様々な角度から示した意義は大きい。
◆岩手県釜石市平田総合公園におけるコミュニティ・ケアによる仮設まちづくりの実践
釜石市
平田公園仮設団地まちづくり協議会
岩手県
狩野徹(岩手県立大学 狩野研究室)
大方潤一郎(東京大学高齢社会総合研究機構)
西出和彦(東京大学高齢社会総合研究機構)
小泉秀樹(東京大学高齢社会総合研究機構)
大月敏雄(東京大学高齢社会総合研究機構)
後藤純(東京大学高齢社会総合研究機構)
冨安亮輔(東京大学高齢社会総合研究機構)
[プロジェクト概要:PDF]
本事業は、東日本大震災に伴う仮設住宅の供給の一環として実施されたものであるが、仮設住宅における生活が相当期間にわたることや被災地域の特徴である高齢化に対応することを念頭に住宅のみではなく地域の居住システム全体を創出しようとした点に独創性がある。ハード面では、高齢者、障害者の入居を想定したケアゾーンにおいて、コミュニティ形成に配慮した玄関の向かい合せの住棟配置とし、さらに、それらの住棟とサポートセンター、店舗、バス停等を屋根付きのウッドデッキでつなぐことで、日常的な行動範囲のバリアフリー化を実現している。ソフト面においても、サポートセンターに総合相談支援、デイサービス等の機能を設置し、他にも見守り機能として専門業者が自治会等と連携しながら、朝晩の声かけを実施する等のシステムが開発されている。空間的なデザインやソフト面のシステムにおいて多くの工夫がなされ、高齢化の進む地域における仮設住宅供給のひとつのモデルを提示した点が高く評価できる。
◆まちなか居住の実験住宅「まちの間」
三島伸雄(佐賀大学 三島研究室)
田口陽子(佐賀大学 田口研究室)
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本事業は、佐賀市において、学生自身が空き家を改修し、実際に居住する実験住宅であるが、単なる大学主導のものではない。中心市街地の活性化を目途に、自治体・地域の研究会(社団法人佐賀県建築士会・佐賀のまちなか居住研究会)が基盤となり、大学の研究室が整備・居住等の基本的なプログラムを実施し、研究会の関連組織が学生入居・改修保障・設備資材の支援等を行うという≪新しい仕組み≫に基づく活動である。その結果、学生は「まちの子」という考え方の下、改修された町家をシェアハウスにすると共に、新たに設けたワークスペースを「まちの間」(まちの茶の間)として機能するものとし、学生は地域と大学の間、様々な地域の人々の間の繋ぎ役として、その活動は継続されている。これらの基本的な事業内容・仕組みの形成、地方都市での空き家ストックの活用、コミュニティと関わる取組み方等のユニークさは高く評価できる。また、本事業をプラットフォームとする次なる動きも始動している。以上より、本活動は、当学会の業績賞に相応しい事業として評価される。
2012年都市住宅学会業績賞審査員
浅沼 由紀 文化学園大学造形学部教授
新井 信幸 東北工業大学工学部専任講師
碓田 智子 大阪教育大学教育学部教養学科教授
大月 敏雄 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授
大場 茂明 大阪市立大学大学院文学研究科准教授
岡 俊江 九州女子大学家政学部教授
小浦 久子 大阪大学大学院工学研究科准教授
島田 明夫 東北大学大学院法学研究科教授
竹原 義二 大阪市立大学大学院生活科学研究科教授
野上 雅浩 独立行政法人住宅金融支援機構まちづくり推進部まちづくり業務グループ
調査役
二渡 了 北九州市立大学大学院国際環境工学研究科教授
三浦 研 大阪市立大学大学院生活科学研究科准教授
森反 章夫 東京経済大学現代法学部教授
安枝 英俊 京都大学大学院工学研究科助教
山鹿 久木 関西学院大学経済学部教授
吉川 忠寛 防災都市計画研究所代表取締役所長
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