2013都市住宅学会賞・業績賞
2011年の業績賞選考より、従来から表彰対象としてきた事業だけでなく、「都市住宅学会設立20周年記念事業」として、20年という長期の学会活動とも平仄をあわせるような、長期に亘る複数事業の集合体に関しても、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、選考・表彰することとなりました。
このたび2013年都市住宅学会賞業績賞につき、学会設立20周年表彰として2業績を、従来からの表彰として4業績を選考し、第21回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
今回受賞した各業績は講評に示されるように 、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。
2013年都市住宅学会賞業績賞(公益社団法人都市住宅学会設立20周年記念表彰)
◆東雲キャナルコートにおけるタウンマネジメントの展開
独立行政法人都市再生機構 東日本賃貸住宅本部
[プロジェクト概要:PDF]
本地区は都市再生機構の賃貸住宅と民間デベロッパーによる分譲、賃貸集合住宅よりなる約16ha(6,000戸)のエリアである。入居開始より10年が経過し、当初計画の全ての建築物が竣工し全街区が完成した。都市再生機構の主導によるイベント活動を中心にしたタウンマネジメントが賃貸住宅の中央ゾーン、S字アベニューを中心に展開され、徐々に住民有志のボランティアスタッフが増えて、住民の自主的・主体的な活動へと移行してきた。この結果、住民のネットワークが強まり、地域の魅力向上に結びつき、賃貸住宅の資産価値の向上とともに、地域の価値向上につながっている。本業績はタウンマネジメントの展開という活動への評価ではあるが、活動を生み出している空間デザインの特徴を見逃すことはできず、長期的、複合的な事業の成果といえる。今日の若い世代が考える新たな住民活動のあり方として注目でき、都心部における新たな住まい方、賃貸住宅地の活性化に向けての事業手法のひとつとして高く評価できる。
以上より、本事業は、当学会の業績賞、20周年記念表彰に相応しいと認められる。
◆東京都新宿区若葉地区「密集市街地における2棟連結増殖型共同建替え」の
地区計画に基づく小規模連鎖型共同建替え事業による居住継続の促進』
村上 美奈子(株式会社計画工房 主宰)
堀川 顕彦 (株式会社計画工房)
[プロジェクト概要:PDF]
木造密集地域と呼ばれる地域は、接道不良や狭小敷地のために、通常の法規での個別建替えや共同建替えは極めて困難な状況にある。首都直下地震など大規模災害が懸念される中で、規制を緩和してでも災害に強く、しかも日照・通風が確保された快適な都市住宅の改善が政策的にも喫緊の課題となっている。
本業績は、平成2年から新宿区若葉町地区を対象としてこの問題に取り組み、多くの具体的で独創的な解決策を提示してきた。日影規制や高度地区を廃止するために再開発地区計画の適用を行政に認めさせて後の街並み誘導型地区計画の創設につなげ、地区計画手法における規制緩和(日影規制・高度地区の適用除外)の先がけとなったことや、地区計画2号施設となる地区内主要道路幅員の要件の緩和、地区計画以外の紳士協定として「まちづくり協力基準」の策定、行き止まりになっていた崖下沿いへの避難路の整備、共同建替え事業における権利者の生活支援策の充実化など、都市住宅整備にかかわる計画面においてさまざまな革新的な試みを実現させてきた。さらに南北軸の集合住宅を2棟連結させた住棟配置によって、裏宅地を解消し、各戸における日照、採光を一定水準確保できる共同化を実現しつつ、同時に既存のコミュニティのまとまりを生かした共同化を図った新しい集住形態を生み出したことなど、木密地域の解消だけでなく、その居住環境の改善も実現してきた。これらの点で本業績は、社会的な貢献はもちろん、実務的・学術的にも多くの示唆を与える優れた業績である。平成2年からの20年を超える長きにわたり、木密地域の多くの問題解消に尽力し、しかも現在も継続されていることからも、卓越した業績と評価される。
以上より、本事業は、当学会の業績賞、20周年記念表彰に相応しいと認められる。
◆スマ・エコタウン晴美台
大和ハウス工業株式会社
[プロジェクト概要:PDF]
本事業は、低炭素な街づくりを、最先端の環境技術導入と環境に優しいライフスタイル確立との両面から推進するものである。個々の住宅はもとより住宅地全体でのエネルギー供給と消費の見える化をすすめるとともに、団地管理組合を法人化し、管理費以外の事業収入(共用部太陽光発電売電料・カーシェアリング利用料)をも確保しながら、エネルギー管理、景観、防犯、防災などのタウンマネジメントに取り組む点は高く評価できる。カーシェアリング、売電、節電のためのインセンティブ(ポイント制導入)など、個人の環境保全行動を触発する仕組みを工夫する点も注目される。今後継続的に収集されるエネルギー消費データおよびアンケート調査からは、スマートタウン運営のための様々な分析が可能である。また本事業は、泉北ニュータウンの小学校廃校跡で堺市初の景観協定を締結して実施されており、ニュータウン再生のモデル事業としても評価できる。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆住み続けられる防災まちづくり
~根岸三・四・五丁目地区 防災区画道路B路線整備の取組み~
独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部
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本事業はURが台東区と連携して施行した防災まちづくり事業である。台東区はURが施行地区内に建築した賃貸住宅を地区内の高齢の借家人の移転先として借り上げ、URは個人施行土地区画整理事業を施行した。URは飛び換地による宅地の再配置、区有地を道路用地とみなすことによる個人地権者の減歩負担の軽減などの工夫によって、3年半で事業を完了している。この事業は、①道路・広場の整備、老朽木造建築物の除却による防災性の向上、②道路網の整備による近隣住民の利便性の向上、③広場の設置による子供の遊び場の提供、④従前借家人の地区内居住による従前コミュニティの維持、の点で、賞賛すべき効果をもたらしている。事業の成功は先行取得用地の存在に負うところが大きいが、この事業は小規模な密集市街地対策事業の事例として他の地域の参考になるであろう。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。。
~地域の「空き」を共有し、コミュニティサービスを展開する』
西上 孔雄(NPO法人すまいるセンター 代表理事)
森 一彦(大阪市立大学大学院生活科学研究科 教授)
小伊藤 亜希子(大阪市立大学大学院生活科学研究科 教授)
小池 志保子(大阪市立大学大学院生活科学研究科 准教授)
生田 英輔(大阪市立大学大学院生活科学研究科 講師)
木村 吉成(木村松本設計事務所)
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本事業は、地域自治を基盤とし、NPO、社会福祉法人、大学、行政等が緊密に連携することで実現している総合的な居住支援プロジェクトである。身体的、経済的、社会的な困難を抱え、サポートを必要としている居住者が集中する条件不利住宅地において、地域の人的・組織的・空間的資源を活かしながら、食生活の支援等、敷居の低いサービスを入口にして、要支援者とのコミュニケーションを図り、ニーズの発見や団地マネジメントの次世代の育成にまでつないでいることは高く評価される。また、府営住宅の空き住戸を活用した事業を立ち上げ、これを検証、発展させて、ストックを活用した新たな取り組みへとつなげているなど、示唆に富むアプローチが採られており、同様の課題に直面している他所にも参考となる優れた居住支援モデルである。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆住宅履歴情報のある家が当たり前になるための活動、普及・啓発・研究
野城 智也(東京大学生産技術研究所 教授)
腰原 幹雄(東京大学生産技術研究所 教授)
中城 康彦(明海大学不動産学部 教授)
齊藤 広子(明海大学不動産学部 教授)
西本 賢二(一般財団法人ベターリビング企画開発部 主幹)
一般財団法人ベターリビング
一般財団法人住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会
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日本では、中古住宅の資産価値が築後年数とともに急速に低下する。住宅の長寿命化のためにも、住宅履歴情報を蓄積・管理・流通させる仕組みづくりが課題とされてきた。
本事業は、(1)新築・修繕・改修・リフォーム等に関する住まいの履歴書(「いえかるて」)の標準書式等を定め、(2)ハウスメーカー、工務店、情報システム会社等の参画を得て、履歴情報の活用方策・モデルを提案している事業である。住宅履歴情報蓄積・活用推進協議会には、正会員61社、賛助会員9社(2013年7月現在)が加入している団体で、3万1千戸余の住宅にID番号を配付している。本事業の普及により、中古住宅流通市場が拡大し、リフォームや住宅設備機器の管理に関する新たなビジネスが発生することが期待される。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
2013年都市住宅学会業績賞審査員
新井 信幸 東北工業大学工学部准教授
大佛 俊泰 東京工業大学大学院情報理工学研究科教授
金子 憲 首都大学東京都市教養学部都市政策コース准教授
桑田 仁 芝浦工業大学システム理工学部准教授
定行まり子 日本女子大学家政学部住居学科教授
志村 秀明 芝浦工業大学工学部教授
瀬渡 章子 奈良女子大学生活環境学部住環境学科教授
田端 和彦 兵庫大学生涯福祉学部教授
弘本由香里 大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所 特任研究員
山鹿 久木 関西学院大学経済学部教授
吉川 忠寛 防災都市計画研究所代表取締役所長
(敬称略・五十音順)
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