2020都市住宅学会賞・業績賞
公益社団法人都市住宅学会では、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、「都市住宅学会賞業績賞」として表彰しております。
このたび2020年度都市住宅学会賞 業績賞 国土交通大臣賞として1業績、同 都市住宅学会長賞として7業績を選考し、表彰いたしました。
今回受賞した各業績は講評に示されるように、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。
【国土交通大臣賞】
◆桜町・花畑地区のまちづくり
熊本桜町再開発株式会社 代表取締役社長 矢田 素史
熊本市
「桜町・花畑地区のまちづくり」は、老朽化したバスターミナル、商業施設等を民間施行の再開発事業で整備するとともに、4車線市道を廃止して、シンボルプロムナード、広場の設置を進めるなど、公共交通機関を核にして、官民が連携して歩いて楽しめる街を目指して取り組まれた事業である。 “熊本城と庭続き”という都市デザインコンセプトにより、当該施設、熊本城、シンボルプロムナードや周辺のまちを一つの庭に見立て整備された緑のランドスケープは、斬新かつ魅力的な都市景観を創出すると同時に、中心市街地のにぎわい、回遊性を向上させ、人通りの増加、地価の上昇、バス渋滞の減少に成功している。熊本地震の経験を活かした官民連携の防災・減災の工夫も含めたきめ細かな中心市街地の再開発は、これからの中心市街地再生の手本となる。
以上より、本事業は、国土交通大臣賞に相応しいと認められる。
【都市住宅学会長賞】
◆「南花台スマートエイジング・シティ」団地再生モデル事業
河内長野市(代表:島田智明)
大阪府(代表:吉村洋文)
独立行政法人都市再生機構西日本支社 (支社長: 新居田滝人)
江川直樹(関西大学団地再編プロジェクト代表)
自治体、UR、大学、地域住民、事業者等が連携し、団地再生の文脈の中で国の政策をキャッチアップして複数の事業を組み合わせ、ソーシャルキャピタルの醸成につなぐなど、優れた成果をあげている。地域に住み込み、住民の日常に寄り添いながら、住民のニーズをキャッチするという実践的方法論により、高齢化が進む郊外住宅地で切実となっている課題を把握し、解決するための具体的な方法を導いている。また、交通、商業、住宅、福祉・医療、教育、文化等々、地域に関わる幅広い政策領域を横断して、生活者のウェルビーイングの観点から団地再生を捉えるアプローチは、都市住宅に係る実務や研究に資する有用な知見を提供し、今日的な課題に示唆を与えるものである。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆住宅の諸課題解決のための出版物シリーズ化と一連の調査研究活動
一般財団法人住総研 専務理事 道江紳一
住総研による本活動は、研究運営委員会委員が任期6年の中でそれぞれテーマを定め、学術的・学際的な研究委員会を組織し、3年間の研究活動をベースに市民公開のシンポジウムを開催し、その討論の成果も含めて「住総研住まい読本」として出版するというルーティーンを確立し、住まいに関するトピックについての精力的な出版を年に2、3冊のペースで続けており、一般的な出版助成とも異なる独創的な事業である。また、近年出版不況が叫ばれる中、研究者らによる住まいに関する書籍を、出版費の一部負担を行うことでできるだけ低価格で定期的かつ精力的に発刊し、多くの読者に読んでもらうことを目論んでいる本事業の、都市住宅問題に関する実務・研究・教育上の啓蒙活動としての意義は極めて高く評価できるものでもある。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆多世代介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」の取り組み
はっぴーの家ろっけん 代表 首藤 義敬
本事業は、立地場所の特性と結びつく人的ネットワークを資源としながら、種々の互助活動を基軸に日常的で自然な見守りを実現しているサービス付き高齢者住宅である。
建設計画過程において近隣住民に働きかけるワークショップを積極的に行い、その信頼を得て、認知症を患う高齢者やその介護者のみならず、引きこもりの学生、外国人、アーティスト、DV被害者、学校帰りの子どもたちや母子家庭の親子等、多様な人々を包摂することに成功した独創的な試みである。
介護保険制度によるケア提供の仕組みが、家族等同居者のいない要介護・要配慮者の在宅ケアや支援ニーズに十分に応えているとは言えない社会背景の中で、地域の中小企業のビジネスと近隣住民の親和性に戦略的に着目し、介護福祉事業や関連事業全体として採算性を実現しながら居住者の「幸せ」を具現化しようとする挑戦は、新たな社会的福利厚生の増進を展望させるものと評価できる。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆広域防災拠点機能強化の役目を果たし地域に愛される防災公園の整備
~さいたま新都心公園~
独立行政法人都市再生機構 東日本都市再生本部 事業推進部
本プロジェクトは、民間大規模研究所等跡地の土地利用変換に際して、官民連携で区画整理事業と防災公園街区整備事業の手法を活用することで、周辺地区で希求されていたオープンスペースを整備したものである。平常時は地域の憩いの場として、災害時は一時避難場所、さらに、広域防災拠点機能を強化し国交省の緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)の活動も可能とする防災公園として整備されている。限られた面積(約1ha)の中に防災機能を備えた開放的な芝生広場を整備することで、平常時から多くの地域住民に愛され利用される公園を整備したことは、今後の都市住宅学に資する優れた事業手法を例示したものであり評価に値する。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆UR団地まるごとDIYとコミュニティ形成による地域活性化プロジェクト大正★UP
独立行政法人 都市再生機構 西日本支社(理事・西日本支社長 新居田 滝人)
本事業は、高齢化と人口減少が進行している大阪市大正区と、1970年代初めに入居が始まった大阪市内最大規模の千島団地を管理する都市再生機構(UR)が連携協定を結び、団地での取り組みがその周辺地域の活性化に寄与することをめざすものである。民間連携による「DIY」、「MUSIC & ART」、「LOUNDRY & FITNESS」等の取り組みが行われている。「DIY」では、UR団地として初めて全住戸をDIY可能住戸とした。団地内の空き店舗にDIY専門店を誘致して、初心者でも気軽に始められるサポート体制を整え、居住者の住まいへの愛着向上と安定居住の促進に寄与している。また、空き店舗の活用やイベント開催は、団地居住者の交流機会と団地外からの集客を増やしている。事業の開始後、大正区の人口は増加に転じた。20、30代の世帯の流入が増えており、社会的貢献度は高い。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆長江家住宅の継承プロジェクト
髙木良枝(長江家住宅プロジェクトチーム)
個人所有の歴史的住宅は、所有者の高齢化とともに、修繕費や維持管理費の経済的負担、日常管理の体力的負担に加え、引継ぎの課題が重くのしかかる。特に規模が大きな町家は初期コストや維持管理費用が高額なため、家への愛着は強いものの、個人での所有・管理を断念するケースが後をたたない。 本事業は、継承が危ぶまれていた山鉾町に立地する 京都市指定有形文化財・長江家住宅を、民間不動産会社がCSR事業として建物を引継ぎ、立命館大学が古文書や工芸品等の所蔵品を管理し、さらに維持管理に地元の専門家を配置する運営体制を作ることで、909点に及ぶ所蔵品や昭和初期の古写真、染織図案や祇園祭関連の古文書、日記のみならず、出入りの大工や植木屋も含めて、住文化の継承を実現している。膨大な所蔵品は立命館大学アート・リサーチセンターによってアーカイブ化が進められ、「長江家所蔵品データベース」としてネット上に公開するほか、祇園祭の際の屏風飾りを大学生の教育の場として活用するなど、学術・社会教育にも意義のある運営がなされている。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
◆「サービス付き高齢者向け住宅ほっこり家」による地域と地山の復興
大月敏雄(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授)
本プロジェクトは、陸前高田市におけるサービス付き高齢者向け賃貸住宅の建築である。この住宅は20室からなっているが、これらの居室の面積を絞って北側に置き、南側に広い共用空間を取ってアルコーブやベンチ等を設置している。この大胆な設計によって、居住者間のコミュニケーションの促進と閉じこもりの抑制が図られている。また、天井高を高く取り、南の庭とその先の低地に開いた設計とすることで、高齢居住者に快適な居住空間を提供している。 共用廊下の魅力の向上は建築計画の大きなテーマである。本プロジェクトは共用廊下のすぐれた工夫例の一つとして高く評価すべきである。また、さまざまな設計の工夫は高齢者住宅・施設のみならず一般の集合住宅への適用も期待されるものである。
以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
2020年度都市住宅学会業績賞審査員
新井 信幸 東北工業大学建築学部建築学科准教授
伊藤 香織 東京理科大学理工学部教授
市古 太郎 東京都立大学都市環境学部教授
岩橋 浩文 熊本学園大学経済学部准教授
碓田 智子 大阪教育大学教育協働学科教授
勝野 幸司 熊本高等専門学校建築社会デザイン工学科准教授
桑田 仁 芝浦工業大学建築学部教授
小浦 久子 神戸芸術工科大学環境デザイン学科教授
志村 秀明 芝浦工業大学工学部建築学科教授
田端 和彦 兵庫大学生涯福祉学部教授
生川慶一郎 京都美術工芸大学工芸学部准教授
弘本由香里 大阪ガス株式会社エネルギー・文化研究所特任研究員
藤岡 泰寛 横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院准教授
室崎 千恵 奈良女子大学生活環境学部准教授
室田 昌子 東京都市大学環境学部環境創生学科教授
安枝 英俊 兵庫県立大学環境人間学部准教授
山鹿 久木 関西学院大学経済学部教授
山口 健太郎 近畿大学建築学部教授
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