2017都市住宅学会賞・業績賞

 公益社団法人都市住宅学会では、都市住宅学、都市住宅計画・事業、都市住宅政策等に関する優れた業績を、「都市住宅学会賞業績賞」として表彰しております。
 このたび2017年都市住宅学会賞業績賞につき、5業績を選考し、第25回学術講演会会場にて表彰されました。また会場では受賞業績のパネル展示が行われました。
 今回受賞した各業績は講評に示されるように、いずれも都市住宅に関する優れた業績であり、今後の都市住宅の向上・発展に大きく貢献するものと認められます。




◆都市型居住の新たな類型としての低層コーポラティブハウス群

株式会社アーキネット
 代表取締役 織山和久


プロジェクト概要:PDF

 密集市街地における老朽木造住宅の更新は、特に街区内側に位置する旗竿状や非整形の敷地では大きな困難を伴う。受賞者は、このような敷地を相対的に安価に取得して、魅力ある中低層の集合住宅に創り変え、合理的な価格で供給するという独創性の高いビジネスモデルを構築してきた。その数は、既に100件を超える。
 住み手参加型のコーポラティブ方式を採用し、第一線で活躍する建築家がデザインを手掛ける集合住宅は、高密度な環境の中にもコミュニティ形成の核となるコモンスペースが有効に配置され、優れた外観デザインと合わせて住み手の満足度を高めている。
 この事業は、密集市街地の不燃化に寄与し、周辺地域に馴染む景観を形成する質の高い都市型住宅の供給モデルを提示しており、社会的貢献度は高い。また、自ら手がけた事業を対象に実証研究を行い、その成果を学会で発表するなど、学術分野での貢献度も高い。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆つながりを育む「遊び」を通した被災地におけるコミュニティ再生の試み

認定特定非営利活動法人 冒険あそび場 せんだい・みやぎネットワーク


プロジェクト概要:PDF

 受賞者は、東日本大震災により指定管理者であった仙台市海岸公園冒険広場の活動停止を余儀なくされた。一方で、被災者の生活が避難所、仮設住宅、復興住宅と住環境が変化する中で、受賞者は長年の「遊びを通して子供の育ちを支えていく」という活動の経験から、子供たちの心のケア不足に気づき、この手当としてプレーカー(遊具運搬自動車)を導入して、地域の求めに応じてプレーリーダーとともに出張し、「冒険広場」を開催してきた。現在はその場が定着し、定期的に「あそび場」が開催され、子供たちで賑わっている。さらに、あそび場とそこでの活動が高齢者や若い親の興味を惹き、高齢者のためのサロンや子育て中の親のための講座などの活動に広がり、地域コミュニティを形成する中心的存在となった。長年の活動の継続がコミュニティ再生のきっかけを生み出してきたとおおいに評価できる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆分譲マンションの住まい手を育むための子ども向け教材の開発と学習プログラムの実践
 −小学生マンションドクター養成塾−


特定非営利活動法人 集合住宅維持管理機構
碓田智子(大阪教育大学 教授)


プロジェクト概要:PDF

 本事業は、小学生とその親世代を対象として、分譲マンションの住まい手として育むための学習プログラムの実践事業である。現居住者および今後の居住者の双方を広く対象とし、建築と教育の専門家の協働により、わかりやすい独自のカリキュラム開発に取り組んでいる。分譲マンションの資産価値を公教育で学習する機会が少ないことに加え、今後、世代交代が進んで不動産の継承がますます重要になってくる中で、親子を巻き込みながら多様な講師陣で対応し、維持管理や建て替えについての理解や関心を高めていることから、円滑な維持管理と資産継承促進に大きく寄与する事業である。また、分譲マンションの共用部分と専有部分という身近な題材から、個と共のあり方についても学ぶことができ、住まいのみならずまちづくりや都市計画を考えるきっかけづくりになっていると評価することができる。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。




◆豊明団地における地域医療福祉拠点化の取組み 〜けやきいきいきプロジェクト〜


独立行政法人都市再生機構中部支社

プロジェクト概要:PDF

 本事業は、藤田保健衛生大学、豊明市、UR都市機構が包括協定を締結し、自治会の参加も得て進めている地域医療福祉拠点化の取組みである。
 具体的には、藤田保健衛生大学は学校法人で初めて介護保険事業認可を受け、その収益で補助金に頼らない地域包括ケアを実現している。豊明市は福祉部局から開始した本取り組みを、他の関連事業部局を巻き込んだ市の中核的取り組みに育てている。UR都市機構は空き店舗・集会所・空き住戸などを地域の資源と捉え、上記の拠点的施設として有効活用している。
 都市住宅の活用方法として特筆されるのは、団地にある全2100戸のうち60戸に教員・学生が住み、ボランティア活動を実践していることである。そのために、学生の居住条件として年間30時間以上の地域活動を設定している。集会所は開放的なデザインに改修され、イベント時の核施設となっている。また商店街の空き店舗を活用した福祉拠点が設置され、地域住民の安心生活実現に貢献している。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。
 



◆復興コミュニティデザイン 〜仙台・あすと長町でのつながり支援〜


東北工業大学 新井信幸研究室 新井信幸

プロジェクト概要:PDF

 災害復興後の仮設住宅から本設、災害公営住宅への移行は都市住宅政策の重要課題である。
 東北工業大学工学部建築学科新井信幸研究室は、東日本大震災後、仙台市内最大(233戸)であったあすと仮設住宅において支援活動を開始、住環境改善への支援として、自発的コミュニティづくりを促す働きかけを行った。具体的には、公営住宅への移行を考える会の設置、コミュニティによる住宅団地の計画・デザイン提案への支援、さらに公営住宅への移行後は、集会所の開かれた利用ルールづくり、運営負担の段階的な外部移行、NPOつながりデザインセンターの設立など一連のプロセスへの支援を行ってきた。
 これらの取り組みは、行政やURに「復興コミュニティデザインの先進的な事例」と評価されており、これらと連携しながら他地区へのサポート活動もおこなっている。東日本のボトムアップ型復興に取り組む多くの集落や地域にとって示唆に富む。
 以上より、本事業は、当学会の業績賞に相応しいと認められる。





2017年都市住宅学会業績賞審査員

安藤 至大  日本大学総合科学研究科准教授
池添 昌幸  福岡大学工学部建築学科准教授
市古 太郎  首都大学東京大学院都市システム科学域教授
大崎 友記子 岐阜女子大学家政学部准教授
川崎 興太  福島大学共生システム理工学類准教授
窪田 亜矢  東京大学大学院工学系研究科特任教授
桑田 仁   芝浦工業大学建築学部建築学科教授
鈴木 雅之  千葉大学国際教養学部国際教養学科准教授
瀬田 史彦  東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授
田端 和彦  兵庫大学生涯福祉学部社会福祉学科教授
三島 伸雄  佐賀大学大学院工学系研究科教授
森  傑   北海道大学大学院工学研究院建築都市空間デザイン部門教授
山口 健太郎 近畿大学建築学部教授
                               (敬称略・五十音順)


2006年2007年2008年2009年2010年2011年2012年2013年
2014年2015年2016年